破滅の剣

 ダブルクロス・リプレイオリジン「破滅の剣」を読んだ。
 以前から中々の出来だと感心していたが、想像以上に魅力的になりだしている。

 今回も安達洋介演じる辰巳狛江以外はとてもいいロールプレイだった。その中にはGMである矢野俊策も含まれる。

 まず感心したのが、NPCである真神修夜が本当にカッコ良かったこと。NPCをカッコイイと思ったのは初めてかもしれない。だが、だからこそ物語はぐっと引き締まり、魅力を増していく。

 ダブルクロスの最大の魅力は人間関係にある、と私は考える。だからこそ枠にはまっただけの敵やNPCを出しても形だけに終わってしまう。GMもまた変則的ではあっても『プレイヤー』の一人だ、とそういう認識をさせられなければダブルクロスのドラマは加速していかないだろう、とも。

 その意味で真神修夜は良かった。
 その想いに刺激されるように高崎隼人が活性化され、一方の玉野椿も柏木伊織によってロールプレイを熱くさせる。
 もちろん二人のプレイヤーの腕も高い。しっかりとGMの求める物語に応えようとする姿勢は好ましく、同時にそれを自らの言葉として表現する力は経験に裏づけられたテクニックと言えるだろう。そこにはキャンペーンとして続けてきた二人のプレイヤーであり、キャラクターが故に生まれる信頼関係もある。

 このリプレイが、以前菊地たけしが行ったものと決定的に違うのは与えられた物語ではないという部分だ。菊地たけしもまた人間の心に踏み込んだストーリーと得意とするが、彼のそれは派手な印象とは違い思いのほかそこが浅い。丁寧な演出をするようで、イメージを優先してしまう傾向にあり、結果として与えられた物語をいかに楽しむかというかという部分が強くなる。
 だが矢野俊策が描くシナリオはもう少し地味で、それ故に丁寧な物語だ。個々のキャラクターをしっかりと捉え、彼らの中にこそ物語を見出す。
 GMが物語を与えるのではなく、プレイヤーが自らの分身たるキャラクターから感じ、紡ぐ物語なのだ。それ故に結果として物語は深みを増し、そのドラマは読むものを感じさせるのだろう。

 さて、今回の新規で加わったファルスハーツ(以下FH)側のPC二人についてだが。
 安達洋介に関しては明らかに場違いである。もちろん物語においてコミックリリーフ、あるいはピエロになり得る存在は意義がある。だが、それは単に笑わせるだけでは為しえない、実は高度なテクニック――雰囲気を読む――を要求されていることを認識していない。
 一方で遠藤卓司がまるで悪役な――トーキョーN◎VAの千早伶呀のような――を演じきった分、安達洋介の愚直さが滲んでしまっているだろう。コミックリリーフを求めるならやはり上手いプレイヤーは必須である。